「なんだ、おれ紫藤 廉様に用か? 愛の告白なら断るぜ」

「なにあなた、このわたしが紫藤 廉ごときに恋愛感情を抱くとでも思っているわけ? どこかの大きな病院にかかることをおすすめするわ」

「冗談だよばーか。冗談が通じないやつほどつまらないやつはいないよな」

宮原へ同意を求めると、彼は困ったように笑顔を浮かべた。

「なんで紫藤 廉ごときに馬鹿呼ばわりされなくてはならないのよ。馬鹿だと言いたいのはこちらだわ」

「がしゃがしゃうるさい女だな。要件はなんだ」

おれが言うと、入野あかねは机から拳を離した。

彼女の顔を見上げると、微かに頬が赤いように思えた。

「入野あかね、なんかお前色付き始めの林檎みたいな顔してるぞ」

「うるさい。今日の放課後……その……」

教室に残りなさいと囁くような小さな声で残し、入野あかねは去った。


「入野さん、なんの用だろうね」

宮原は言った。

「さあな。だいたい想像はつくが」

「えっ、本当に? なになに?」

「まあ、どうせ入野あかねのことだ。おれを心ゆくまで殴るか蹴るかしたいんだろう」

「そんなことを想像しながら、廉くんは今日、放課後残るの?」

宮原はやめておけとでも言うように声を上げた。

「安心しろ。おれは自称前世が猫で今も猫に近い男だぞ。持久力は来世で手に入れるが、瞬発力はすでに持っている。入野あかねの手やら足やらが本気の殺気を纏っていたら逃げる」

「お願いだから明日も会ってね」と言う宮原へ、「お前も何気に冗談通じねえな」と返す。