「廉くんは自分の前世ってなんだと思う?」
昼食中、宮原はパック飲料のストローを咥えながら言った。
「前世か……。なんとなくだけど、猫かな」
「……猫? どうしてそう思うの?」
「いやあ……なんとなくとしか。今、なんか猫っぽくなってきてる気がするし」
「ああ、なるほどね。言われてみれば、廉くん猫っぽい気がするかも。瞬発力はものすごいけど持久力ないし、絶対に道に迷わなそうだし」
「前は方向音痴だったんだけどな。わんこと散歩に行くだけでもよく記憶しておかなければ迷いかけるほどに。でも確かに最近は道に迷うこともなくなった」
「磁場でも感じてるの?」
「いや……そんなことはないけど。ところで、宮原は自分の前世はなんだと思うんだ?」
「僕はねえ……いつかの時代の貴族かなんかじゃないかなと。わがままだからね。前世でも好き放題やってたんじゃないかなと」
「反対かもよ」
おれが口角を上げると、宮原は表情で意味を問うた。
「前世は奴隷かなにかで、その弾みで今はわがままに――みたいな」
「ああ、なるほどねえ。そういう可能性もあるのか……」
「でも宮原、気をつけろよ。またこういうことを真面目に考えてると」
入野あかねの名を出そうとした直後、おれの机に拳が落ちた。
ほら来たよ、とは無意識のうちに出た。
「またこいつに、『本当にあなたたちって頭が空っぽなのね。どうしてそんなにくだらないことばかり考えていられるのかしら。わたしには到底理解などできないわ』とかなんとかうじゃうじゃ言われるぞ」
「紫藤 廉」
入野あかねは低い声で言った。
「出たよ、説教電源が入っちまった入野あかねの低音」
「そうじゃなくて。紫藤 廉には人の話を聴くということができないわけ?」
「おれは必要のない情報は聞き入れない主義でね。入野あかねの口から出る言葉が面白い情報を連ねるとは思えないのだ」
「紫藤 廉はどうやら、もう少しいろいろな言葉を知った方がいいようね」
「おれは外国語の学習は好きじゃない」
「そうじゃなくて。日本語をもっと知れと言っているの。もう少し柔らかな言い方ができないの?」
「できるのであればそうしている」
ちょっと、と宮原の声が入る。
「廉くん、あまり入野さん怒らせると……」
入野あかねに「あなたには関係ない」と返され、宮原は「ごめんなさい」と返して黙り込んだ。