「おちゃまるの肉球って何度見てもかわいいなあ。いいね、おちゃまる。かわいい手足で」
来世は愛してくれる家族とともに過ごす犬がいいなと呟く。
「おちゃまるはここにいて不満はない?」
おれはおちゃまるの足を洗いながら言った。
おちゃまるから返事があったように思えたが、あまりにこちらにとって嬉しいものだった。
神の声もほとんどそうだった。
時折否定的な返事をすることはあったが、彼も基本的におれが喜ぶようなことを返してきた。
「思い込みって怖いよね。おれね、おちゃまるたちの気持ちがわかる気がしてるの」
気持ちの悪い家族でごめんねと苦笑し、おちゃまるを抱き上げて風呂場を出た。
柔らかいタオルである程度の水分を拭き取り、「乾かすよ」と声を掛けてドライヤーの冷風を少し離れた位置から当てる。
「おちゃまるって本当におとなしいね。だから馬鹿な家族が調子に乗った思い込みをするんだろうね」
足の乾燥と状態の確認、体のブラッシングが済むと、「おちゃまるおつかれさま」と彼の首をくすぐるように撫でた。
「戻ろう」と声を掛けて脱衣所を出ると、おちゃまるは尾を振りながらついてきた。
廊下の途中で、おれは「逆だ」と呟いた。
「おれがおちゃまるの気持ちがわかるんじゃなくて、おちゃまるがおれの気持ちをわかるんだ。神もだけど」
そういうことかと言いながらリビングへ入ると、母親はたった今作り終えたのであろう耳飾りを眺め、「廉最近独り言多いよね」と言った。
「そう?」
どんどん変人が極められていくな、とおれは苦笑した。