リビングへ入ると、おちゃまるが尾を振りながら駆け寄ってきた。
「ただいま」と彼を抱きしめ、全身を撫で回す。
「かわいいなあ、おちゃまる。元気だったか? 散歩楽しかった?」
よしよしと繰り返しおちゃまるを撫でる。
おちゃまるを散々撫で回した後、おれは母親が作業に使っている机の上を見た。
装飾品や小物入れが散乱する中、白い糸でフェンスのようになったバッグのようなものが目に入る。
「おかえり」という声に振り返ると、母親が串団子を片手に台所から出てきた。
「……母さん、その団子本当に好きだな」
「あそこのスーパーでいつも安いの。百円ちょっと」
「別に値段はいくらでもいいんだけど。ところで、このバッグみたいなのはなんだ?」
おれは白いフェンスのようなバッグを顎で示した。
「みたいなのだなんて失礼だね。これはバッグだよ」
「へえ。これが?」
「この中に布をつければ、ちゃんとバッグになるの。そして、それだけじゃあつまらないから、あじさいの花をつけるの」
「へえ。そのあじさいも手作りか?」
「もちろんそうだよ」
「ふうん、よくやるな」
「手作りはいいものだよ。それより廉、おちゃまるさんのお散歩行ってきて」
またかよと出た声は大きなものだった。
「おれが体力なくなってきてるの知ってるだろう」
「知ってるさ。だからだよ」
母親は串をそばのごみ箱へ捨て、はいはいと手を叩いた。
「若い人は動く動く。おちゃまるさんが退屈しちゃうよ」
「退屈させる前に行ってあげてよ……。ていうかこっちは今日体育の先生に殺されかけたんだけど」
そんなものわたしが知ったことじゃないよと虫を払うように手を動かされ、おれははいはいと頷いた。
着替えてきますと残してリビングを出る。