「なんだか前から思っていたけれど、紫藤 廉って本当に気持ちの悪いやつよね」
「ああ。ただそれを入野あかねに言われたのは初めてのことではない」
「ええ。確かに幾度も言ったわ」
「幾度となく言われたよ」
で、と入野あかねはため息のように言った。
「紫藤 廉が自分のことを話すのは、わたしが自分のことを話してからってこと?」
「何度も言ったろう」
なんて物分りの悪い女だと続けると、静かに脛を蹴られた。
「蹴りたいのはこっちの方だ。それなりに痛いし」
「わたし、静止した状態で強く蹴るのが得意なの」
「どんな特技だよ。いつ使うんだ」
「こういうとき」
「ふざけんな」
食い気味に返した。
「で、どうだ。悪い話ではないだろう。貴様がおれに不満を打ち明ければ、それが解消される上にもれなくおれの秘密を知ることができる」
「別に紫藤 廉の秘密とかあまり興味ないし」
「少しはあるんだろう? それに安心しろ、おれの秘密がわかることが主体じゃない。それは付録みたいなものだ」
「ああ、中途半端な大きさのウエストバッグみたいな」
「すぐ要らなくなるやつじゃねえか」
「要らなくなるわよ」
当然だろうとでも言いたげに入野あかねは言った。
「なんで紫藤 廉の秘密を一生覚えておかなくてはならないの。紫藤 廉の弱みならまた少し話は変わるけど」
「なんで入野あかねから不満を聞かされてそれを解消してやる上に弱みまで握られなきゃいけないんだ」
「面白いじゃないの」
「貴様だけだ」
僅かな沈黙のあと、入野あかねはどうしようかなと呟いた。