「ところで廉、日本でもって言ってたけど、他の国でも黒猫って縁起物なのか?」

「ああ」

飽きたのか、黒猫はぶるりと体を震わせ、どこかへ去って行った。

元気でね、と黒猫を見送る。

「中国でもそうなんだ。昔から、幸運と……富だったかな。その象徴なんだって。母さんが言ってた」

「へえ、中国か。東アジアだっけ、そんな感じで近いから、同じものの捉え方も似てんのかなあ?」

「どうだろうね」

「なんか廉みたいなやつが友達にいると勉強になるな。日本語以外も教えてもらえるし」

「何回も言ってるけど、おれは中国語は教えないぞ。おれくらいの語力なら、少し勉強すれば追い越せる」

「廉は控えめだなあ。おれなんかじゃもう、自慢しかしねえから。親族に別の国の人がいるやつの特権だからな」

「別に得をしたことはないけどね。母さんが日本を好きすぎて、息子のおれは普通に生活するだけでは日本人みたいなもんだから」

「いやあ、でもさあ……」

「宮原だって、遠くに沖縄の血が混じってるじゃん。それで得をした経験はないだろう? いやもちろん、損をしたこともないだろうけど」

「いや、おれは得したことあるぞ。ちょっと顔が濃いためにかっこいいって言われたことがある」

くそ、とおれは苦笑した。