「よおしよしよし、よおーしよしよしよし」

おれはリビングの床に寝転び、腹の上に乗ったおちゃまるを撫で回した。


あれから土曜日の今日まで、入野あかねと話すことはなかった。

朝は昇降口で会わぬよう登校の時間を変え、教室では目を合わせぬよう配慮したためだ。

入野あかねに、自分にとって紫藤 廉という男が必要であることを自覚させようと思った。

入野あかねは今頃、紫藤 廉という男はなにゆえにあれほど自分の存在に自信があるのだろうとでも考えていることだろう。

しかし、今のおれは今の入野あかねにとって必要不可欠な存在である。

彼女が自身を取り巻くなにかに不満を抱いているのは確かだ。

しかし、今の彼女はそれを解消するほどのものを持っていない。

その代用品のようなものがおれなのだ。

今のおれは、小さな箱の中に眠る神のおかげか、念じたことを必ず実現することができる。

それは他人の願いの実現や不満の解消もそうだ。

他人の願いの実現や不満の解消をおれが念じれば、きっとそれは現実になる。

明後日にでも入野あかねのそばで彼女の不満の解消を念じた場合にも入野あかねの不満は解消するのかもしれないが、

彼女の不満が具体的にどんなものなのかがわからなければ、念の力は弱まる。

少し前に、再度母親の収入が普段の倍になるようにと念じた。

確かに収入は普段よりは多かったものの、倍には届かなかった。

前々回は母親の作ったインターネット上での商品が普段よりも多く売れ、結果として収入が倍になるようにと念じたのに対し、

前回はただ母親の収入が倍になるようにと念じた。

それで、念が具体的な内容であればあるほど望んだ形に近づくのだとわかった。

よって、入野あかねがどのような不満を抱いているのかがわからない現状で下手なことを念じるわけにはいかないのである。