「もっと強いものだ。おれのことを腹の底から嫌っても、なにかを変えられるわけではない」
「……なにが言いたいのよ」
「おれは入野あかねの腹の中を知りたい」
「わたしの食べたものを知ってどうするの。同じ食生活を送るつもり?」
「胃の中じゃない。他人の胃の内容物になど関心はない。本気で誤解させたのであれば言い方を変えよう。おれは入野あかねの心の中を知りたい」
「本当に気持ち悪い男ね」と呟く入野あかねへ、「そう言われそうだから少し言葉を変えたんだ」と返す。
「一つだけ」
短い沈黙を、おれは右手の人差し指を立てて破った。
「一つだけ、確かなことがある」
入野あかねの名を呼びながら、人差し指を彼女へ向ける。
「貴様がおれを求めているということだ」
入野あかねは不満げな表情で下からおれを睨んだ。
「今の入野あかねが紫藤 廉を求めている――これは貴様がどれだけのことをしようと、貴様自身が変わらない限り真実だ」
「どんな洗脳術よ」
「洗脳だなんてそんな難しいことではない。おれはただ、貴様に貴様の現実を伝えているだけだ」
入野あかねは静かにうつむいた。
「……わたしが、紫藤 廉を求めている……?」
「ああ。入野あかねがおれに、確かに今抱いているそのでかい望みを語れば、入野あかねはその望みを叶えることができる」
「下手な和訳みたいな言い方ね」
「今はまだ曖昧なことが多いんだ、仕方なかろう」
おれは一度深く呼吸をした。
「とにかく。なるべく早い方が入野あかねのためにもなるが、いつでもいい」
己の気持ちに正直になれと続け、おれはレジへ向かった。