「あの猫、ここの猫なのかな」

前方数メートル先にいる黒猫を見ながら、宮原が言った。

「さあ、どうだろう。かわいいよね」

「かわいいか? 黒猫だぞ」

「ああ、黒猫だよ」

「かわいいのか、黒猫って?」

「いやあ……まあ、かわいいっていうのは失礼かもしれないね。黒猫は神様みたいなものだから」

おれが言葉を並べている間に、黒猫は賽銭箱の前に座るおれの足元に寄ってきた。

手を伸ばしても、特別に警戒する様子も見せなかった。

そっと触れてみるが、大きな反応はない。

「黒猫って神様なのか? じゃあ、この神社の神様を……可視化だっけ、した感じ?」

「もしかしたらそうかもしれないね」

でも本当にそうだったらこんなに馴れ馴れしく触るのも罰が当たりそうだね、とおれは笑った。

「ていうか。黒猫が神様だなんて話聞いたことねえんだけど、おれ」

「そうなの? 日本でも、黒猫は縁起物なんだよ。フクネコ――幸福の猫として、魔除けや幸運の象徴とされてたんだ」

「へえ。お前日本人でもないのに日本に詳しいのな」

宮原の言葉に、おれは苦笑した。

「そういう言い方はせめておれだけにすることだね」

「でも本当に詳しいよな。日本のことならなんでも知ってんじゃねえの?」

「そんなことないよ。ゲーム機だってたまにちゃんと動かないときがあるんだ、人間なんか所詮は生き物、誰だって完璧とは掛け離れた存在だよ」

おれが黒猫を撫でながら言うと、宮原は大げさに噴き出した。

「廉、お前ってたまに聞いてる方が恥ずかしくなるようなこと言うよな」

はははと楽しそうに笑う宮原につられ、おれも小さく笑った。