少しの静止のあと、先に目を逸らしたのは入野あかねだった。
「……ええ、なに。廉くんたち、ずいぶん仲変わったんじゃない? これは……よくなったの? 反対? 喧嘩でもしたの?」
宮原は興味津々に言った。
「どう……なんだろうな」
「別に。なにもないわよ」
入野あかねは低い声で言った。
「おおっと、怖い怖い」
「……入野さんってさ、なんで紫藤くんのこと嫌いなの?」
入野あかねは問うた宮原を睨んだ。
「別に。わたしが嫌いなのは紫藤 廉だけじゃない。あなたのことも紫藤 廉と同程度嫌いよ」
「ああ……そうだったんだ」
それは失礼、と宮原は苦笑した。
「なに、好かれているとでも思っていたの?」
「ちょっ……入野あかね。おれを嫌うのは飽きるまで存分にしたらいいが、宮原は関係ないだろう」
「わたしが彼を嫌いなのは、紫藤 廉と仲がいいためではないわ。紫藤 廉と同じような人間だからよ」
頭が空っぽでなにも考えていないようなね、と残し、入野あかねは空になった鞄を持って席を立った。
「入野さん……すごいね。僕の頭が空っぽだって見抜いてたんだね」
「そうみたいだな……。なんとなく、宮原が入野あかねに嫌われる理由がわかった気がするよ」
「……えっ?」
言葉の意味を問う宮原に口角を上げ、おれは鞄を空にして席を立った。