「……紫藤 廉。あなた、本当に本気で言っているの?」

「何遍言ったらわかる?」

「何遍言われたってわからないわよ。紫藤 廉はわたしを救うと言うけど、どうやって救ってくれるって言うの?」

「だからそれを考えるために、入野あかねがおれに対して素直になることが必要なんだよ。

おれが入野あかねの腹の中のことでわかっているのは、確かになんらかの助けを求めているということだけだ。

その理由などを中心とするその他のことは一切わからないし、想像もつかない」

入野あかねは静かに目を逸らした。

「紫藤 廉……なんなの、あなた。なんで……なんでそんなに、他人のことに尽力するの?」

「なんで――か……。まあ、それが今のおれのするべきことだから、といったところだろうか」

「紫藤 廉はなんでも屋さんにでも就職するの?」

「さあ、どうだろうな。ただ、それも悪くないな。そんな将来、全く考えていなかったよ。面白そうだ」

入野あかねは右下を向いたまま、小さく笑った。

「馬鹿じゃないの、本当に単純な男」

「男は皆、単純だよ。おれだけじゃない」

おれは僅かに後ろへ下がった。

「まあ、この高校を離れるまでならばいつでもいい。おれに素直になれそうなら、そうしてくれればいい」

おれは続きの階段の方を向き、「まあ入野あかねなんかにそれ以外の選択肢などないがな」と笑い、階段を上った。