「なんとなくわかる。入野あかねの願いを叶えるのは決して難しいことではない」

おれは階段を上りながら言った。

入野あかねは隣で髪の毛を掻き揚げる。

「はあ? 紫藤 廉なんかにわたしのなにがわかるっていうの?」

「言ったろう。おれは空っぽな頭を持った天才なんだ」

「本当に、どっこまでも気持ち悪い」

「入野あかねがおれに頑固な女だと思われていても結構だと思うように、おれも入野あかねに気持ちの悪い男だと思われていても結構だ。いや、それどころか大いに結構だ」

本当にむかつく、と入野あかねは呟いた。

「で、どうせわかってるんでしょう? わたしの願い事」

「いいや、それはわからない」

「嘘つき。どうせわかってるんでしょう? で、わたしをどうするつもりなのよ?」

「だから、おれは入野あかねを救済したいと考えている。そのためには貴様がおれに対して素直になることが絶対的な条件なんだ」

「うるさいなあ。今までに幾度となく素直になっているでしょう、わたしは紫藤 廉が嫌いなの。これ以上に素直になんてなれないわよ」

「ふうん。じゃあ、おれをおれ以外の人間だと思って素直になれ」

「どんなむちゃぶりよ。死んで生き返ろみたいなものじゃないの」

「本当にどうしようもないほどの頑固ガールだな、入野あかねは」

「だから頑固で結構だって言っているでしょう。なんなの、紫藤 廉だって、わたしなんかに構うより他の女の子を口説いた方がさっさと釣れて楽しいんじゃないの?」

「残念ながら、おれは入野あかねを恋愛的な関係を求めて口説いているわけではない。……まさか、入野あかねにはおれがただの女好きに見えてるのか?」

おれが言うと、「違うの?」と入野あかねは短く返した。

「だからおれは入野あかねを助けようとしている人間である旨を幾度も伝えているだろう。本物の馬鹿は入野あかねの方じゃねえのか?」

踊り場へ上がって振り返ると、入野あかねはおれを数段下から見上げた。