その後およそ四十分続いた歩きに息を弾ませながら、おれは首元の紐を引っ張り、服の中から鍵を出した。
鈴の音を鳴らしながら鍵を開け、扉を右へ引く。
玄関の中へおちゃまるを入れ、靴を脱いで彼を抱き上げる。
ちょうどリビングから出てきた母親が「おかえり」と言う。
「ただいま」と返すと、「ずいぶんはあはあしてるね」と母親は言った。
「気まぐれにおちゃまると走ったら死にかけた」
「へえ。本当にかなり体力落ちたね」
まだまだ若いのにと言いながら、母親はトイレの方へ歩いて行った。
彼女の背が視界から消えてから、トイレの扉が閉まる音が聞こえた。
「おちゃまる、悪いね。肉体年齢の高い家族で」
おれの言葉はないものであるかのように、おちゃまるは腕の中でただ尾を振る。
口を開けた彼の人間より確かに早い呼吸に自分が重なる。
まあ持久力を失っただけの人間が息を切らしている様がこれほど愛らしいものであるはずはないが、と腹の中で苦笑する。