土曜日の夕方、おれはおちゃまるを連れて家を出た。


「おちゃまる――」

今日はどっちに行く、と尋ねる前に、おちゃまるは家の敷地を出てすぐ、左に向かった。

「おちゃまるは元気だね。嬉しい限りだ」

たまには走るか、とおれは歩みを速め、走り出した。

おちゃまるは余裕な様子で隣を走る。

「おれより遥かに小さな体で無限に近い体力持ってるよな、おちゃまるって」

おれは走りながら苦笑した。

外の世界を知って間もない幼子のようだと思った。

胸の下で鈴とともに激しく動く家の鍵をティーシャツの中へ収める。


おちゃまるとの走りは二十分も続かなかった。

おれが限界を迎えたためだ。

「おちゃまる……おれから……言っておいて、なんだけど……もう、ゆっくり行こう」

おれは浅く早い呼吸の合間に言った。


少し前から、体力の低下を自覚している。

同時に、瞬発力が上がったように感じた。

体力の低下と瞬発力の向上を感じる前は持久力が高いことが自慢だったため、喪失感のようなものを感じた。

こうして走ったりすると、未だにそれを感じる。


「前はおちゃまるにも負けてなかったんだけどな」

これじゃあおちゃまるが満足できないな、とおれは苦笑した。