「まあ、確かに廉くん、嘘は僕よりも下手だもんね。廉くんには多分、人生に嘘という概念がないんだろうね」
「それは否定しないな。人に騙された経験は数え切れない」
「……大丈夫? 金目のものは盗まれたりしてない?」
「大丈夫だ。そんなものは持っていないし、そこまでのことをするような人とは関係を築いていない」
「そうかそうか」
それはよかったよと宮原は笑顔のまま続けた。
おれが宮原とともに売店で購入した惣菜パンをかじると、彼は深いため息をついた。
「そういえば、高校生活ももう二年目に入ったね。それからもうだいぶ経ったし」
「ああ……」
「嫌だなあ、卒業。やっぱり、学生というだけである程度のことからは守られてるような感じがあるよね」
「確かに、それはそうだな」
「学生ならではの嫌なこととかもあるけど、なんだかんだ学生っていい身分なんだよね……」
「まあ、高校までが学生ではないからな。大学へ進学すれば、高校を卒業してからも四年は学生を名乗れる。その先まで進めば、さらに二年と……」
二年の先は何年だったかと考えるが、答えは出なかった。
「大学ねえ……。ただ、ドラマなんかでは就職の面接で、大学で学んだこととか訊かれてるんだよね」
「就職か……想像しただけでも憂鬱だな」
「ああ……でもまあ、高望みしなければそんなに大変でもないのかな? 身の丈に合った場所を受けていけば、そのうち内定もらえるような気もする」
「実際そのような部分もあるんだろうが、そう考えていることを見抜かれたら最後だろうな」
やれやれ、と宮原は頭を掻いた。
「人間、誰かの中で特別な存在になりたいと考えがちだからね」
おれはふっと笑いをこぼした。
「えっ、なにか面白かった?」
宮原は不思議そうに言うと、ソースで汚れた口の端を指で拭った。
「いや、こんな会話を大人に聞かれたら、生意気なガキだとでも思われるんだろうなと思ってさ」
「ああ……」
確かに、と宮原も小さく笑った。