「いやあ、廉くんは本当に入野さんと仲が悪いね」

昼休み、宮原は売店で購入した惣菜パンをかじって笑った。

おれはパックの乳飲料を一口飲んだ。

「廉くんはなんであんなに入野さんに嫌われてるんだい?」

「おれのように頭が空っぽな人間が嫌いなんだとさ。前にも言わなかったか」

宮原は「ははは」と苦笑した。

「確かに聞いたかもね。それより、廉くんはなんであんなにも廉くんを嫌っている入野さんに近づいていくんだい?」

「別に。本能みたいなものが働いてるんだろう」

「へえ。じゃあ、廉くんは入野さんのことが好きなんだ? 特に恋愛的な意味で」

「それは違うな」

おれは食い気味に返した。

「おれが入野あかねのことが好きである、それは絶対に違う」

「認めたくないだけじゃなくて?」

「違う。なぜ人を好きになったことを認めたくないんだ」

「ほらあ。入野さんは社長令嬢、廉くんは平々凡々な男の子。恋愛がうまくいくとは思えないじゃない?」

「ああ、なるほどな。でも違う。おれは入野あかねに恋愛感情は抱いていない」

「本当かなあ?」

訝るように顔を覗き込む宮原へ「おれは嘘はつかない」と返す。

「邪魔だ」と虫を払うように手を動かすと、宮原は静かに姿勢を正した。