入野あかねは教室へ着くと、自席に大きな音を立てて鞄を置いた。
「おおっとびっくりした」と言ってやれば、彼女は怒りや敵意に似た光を宿らせた目でこちらを睨んだ。
「本当に最悪な朝。紫藤 廉に会った上にごちゃごちゃと口出しされて。本当に最悪。なんてついていないの」
「その状態でおれに出逢えたこと以上に幸運なことはないと思うがな」
「馬鹿じゃないの。今のわたしにとって、紫藤 廉という存在を認識したこと以上の不運はないわよ」
おれはため息をつき、苦笑した。
「入野あかね、お前それ本気で言ってるのか?」
「嘘をわざわざ大声で並べたりしないわよ」
「ならば入野あかねも相当なお馬鹿さんだ」
「別に、本物の馬鹿に馬鹿だと言われたって痛くも痒くもないわよ」
「ちょっとくすぐったいけど、みたいな?」
はははと笑うと、入野あかねは「紫藤 廉は他人に構ってないで自分の荷物片付けたら?」と低い声を並べた。