「それでは入野あかねを救済することはできない」
「安心してくれて構わないわ。別にわたしは紫藤 廉からの救済など求めていない」
「生意気な女だな」
「紫藤 廉こそ。このわたし、入野あかねの個人的な部分にまで踏み入ってこようだなんて」
「おれが踏み入らずして他の誰が踏み入るんだ」
「わたしは誰にも踏み入ってなど欲しくない」
何段目かの階段を上り、おれはため息をついた。
「入野あかねは自分で自分を救えるとでも思っているのか?」
おれが言うと、先に踊り場へ上がった入野あかねはこちらを振り返った。
「……はあ?」
「おれには入野あかねがそんなことをできる人間には見えない」
おれは最後の二段を飛ばして踊り場へ上がった。
「……紫藤 廉、なにが言いたいわけ?」
「直接言ってほしいのであれば言ってやろう」
「なにその上からな感じ……」
本当にむかつくと呟き、入野あかねは、彼女を置いて次の階段を上り始めたおれの隣に着いた。
おれはふっと笑った。
「……おれ以外に入野あかねを救える者はいないんだよ」
「はあ?」
気持ち悪い、なんなの、頭どうかしてるんじゃないの、などと呟きながら、入野あかねはおれの隣で足音を立てた。