おちゃまるのブラシどこ置いたっけ、と辺りを見回すと、作業をしていた母親が「ここ」と探しものを投げた。
「どうも」とそれを受け取る。
「散歩に持って行って外でやればいいのに。廉いつも忘れるでしょう」
「どうもさあせん。でもいいじゃん、おちゃまるなんだし。おれの髪の毛なんかじゃ嫌だけど。な、おちゃまるもそう思うよな?」
おいで、とおちゃまるを呼び、素直に寄ってきた彼の全身をよしよしと撫でる。
「さあせんじゃなくてすみませんでしょう。綺麗な日本語を使ってちょうだい」
「母さん本当に日本好きだよな。日本のなにがそんなに好きなんだ?」
おれはおちゃまるの毛並みを整えながら問うた。
「わからない。だけど、小さい頃に旅行できたときから大好き。お父さんたちが日本に興味があったのも影響してるかもね」
「ふうん。じゃあその旅行は家族で?」
「そうだよ」
「……ああ、そういえば中国のじいばあは元気かな。最近は電話も全然してないや」
「お父さんもお母さんも元気だよ。また都合がいいときに会いに来てくれたら嬉しいなって言ってた」
「そうか。そのうち電話しようかな。会いに行くのはなかなかできないからね。
おちゃまるを一人ここへ残して行くのはちょっと。誰かに預けるといってもそんな信頼できる人いないし」
「でもなんか、旅行なんかで家を空ける間ペットを預かってくれる場所もあるみたいだよ」
「いや、おれは最愛の家族を他人の元に残して家――どころか国を離れるなんてことはしない」
「まあ、そんな行かなきゃいけないというわけでもないからね」
まあ大丈夫大丈夫、と母親は笑った。
おれはブラシに残ったおちゃまるの毛を取り、床に置いた。
「本当、おちゃまるくらいになってくると抜けた毛すら愛おしい。自分の体毛じゃ嫌すぎて震えるけど」
「変態?」
作業をしながら特に表情を変えることもなく言う母親へ、「動物好きを自称するならこれが普通だ」と返す。