帰宅しリビングに入ると、母親は「おかえり」と笑顔を見せた。
おれも「ただいま」と口角を上げる。
「ああそうだ、廉。今日、おちゃまるさんの散歩、二回目行けてないの。行ってくれる?」
「ああ、わかった。着替えたら行ってくるよ」
作業をする母親の足元にいるおちゃまるへ、「なっ」と声を掛ける。
ゆっくりと寄ってきた彼をわしゃわしゃと撫で、「ちょっと待っててな」と残して自室へ向かう。
紺色のティーシャツに黒いジーンズというのは、いつからかおちゃまるの散歩に行くときの服装としておれの中で定着していた。
家の敷地を出てから、おちゃまるに従って右に曲がった。
少し前に母親が新たに購入してきた鮮やかな赤色のリードが視界の中でいやに目立つ。