「なあ、おれってなんでそんな入野あかねに嫌われてんの?」

休み時間、おれは入野あかねに問うた。

「さあね。特に理由はない。ただ嫌い、それだけ」

「理由もなく嫌われることほど苦笑しか出ないものってないよな」

おれは言いながら苦笑した。

「わたし、紫藤 廉のように頭が空っぽな人間が大嫌いなの。脳自体は持っているはずなのに、なにか考えることはないのかしら?」

「ほほう……。おれ、こう見えて実際よりだいぶ賢そうに見られるんだ。なんか本当の自分を見つけてもらえたみたいで悪い気分じゃないな」

入野あかねはぴくりと目を開き、おれを見た。

「……本当の、自分……」

彼女はうつむき、机の上の手を強く握った。

「……そんなもの、他人なんかに見つけてもらえるはずがないでしょう」

入野あかねは微かに震えた声で並べた。

「……本当にそうかね」

おれは言った。

「意外と、自分なんて他人にしかわからないものなんじゃねえのかな」

不意に向けられた入野あかねの鋭い視線に、おれは苦笑する。

「自分のことなんて自分にしかわからないとか言う者もいるが、自分に自分の本当の弱みなんてわからんだろう」

入野あかねは大きな音を立てて席を立った。

「……わたしあなたみたいな人――」

大嫌いと力強く残すと、彼女は大股で歩いて教室を出て行った。