「やあ、廉くん。おはよう」
翌朝、廊下へ上履きを放った直後に肩を叩かれた。宮原だった。
「ああ。おはよう」
「どうした、ひどい顔だね。寝不足かな?」
宮原はおれの顔を覗き込んで笑った。
「昨夜は少し考えごとをしてな」
上履きへ足を突っ込み、つま先を廊下へ軽く当てながら言った。
後方で宮原が上履きを足元へ放る。
「考えごと……。悩みでもあるの? 僕でよかったら、力になるよ」
「いや、大丈夫だ。もしも宮原が、星になった動物をこの世に連れ戻すことのできる異能力者のような者ならお願いするがな」
言いながら教室へ向かうと、宮原はおれの隣に着いた。
「おやおや、ずいぶんと難しいことを考えているようだね」
「難しいというか……。まあ、考えた末に答えがあるようなものではないな」
「ほう。冷めていそうな廉くんが答えのないことを考えるだなんてね」
「おれってそんなに冷めているように見えるか?」
階段を上りながら問うた。何段目かの階段につま先をぶつけ、小さく声を漏らした。
「冷めているようにしか見えないよ。実際はちょっとぬけているような部分もあるようだけど」
宮原は言ったあと、「さっきの本当?」と笑った。
「あんな面積の狭い部分に面積の狭い部分を当てるなど、狙った方が難しいだろう」
まあそうだけどさ、と宮原は苦笑する。
「でもあまりに印象と違う一面だったからさ」
「前からなにゆえか多くの人に上等な人間だと見られるが、おれは勉強を嫌っては遊びを愛する男だ。
三日の間固形物を一切摂取するなというものか三日の間飲食は自由だがそれ以外の時間は勉強をしろというものなら、コンマ三秒も迷わずに三日の間固形物を摂取しない方を選ぶ」
「ええ……。好きなことはしなくても命の危険はないけど、食事はしないと危ないんだよ?」
「三日くらいならば耐えられる。それに、おれには肉体が死ぬことよりも精神が死ぬことの方がよっぽど恐ろしい」
またちょっとかっこよく聞こえるようなこと言いやがって、と宮原は苦笑した。