「ああそうだ、宮原」
おれはふと、疑問を思い出して言った。
「ん、なに?」
宮原はペットボトルの蓋を閉めながら反応した。
「おれってさ、不良と言われないようには見えないかな?」
宮原は表情で聞き返してきた。
「そうだ。おれって不良に見える?」
おれが言い直すと、宮原は小さく唸った。
「そんなこともないと思うけどなあ。どうして?」
「いや……。なんか、あなたって不良なのって訊かれたから」
「そんな直球な質問する人なんているんだね」
「ああ。誰かはだいたい想像できるだろう」
「えっと……入野さん?」
「大正解だ」
「まあ、廉くんは気になることはすぐに訊くような人だからね。
不良なのかって訊かれたのはつい最近のことだろうと思って。
意外と冷めていそうな廉くんが発言を気にする相手というと、この学校に数人存在するという社長令嬢の一人である入野さんかなと。
廉くん、入野さんに興味があるようだからね」
「まあ、入野あかねだから気になるというわけじゃないけどね。社長令嬢や社長令息と言われてる人なら誰でもいいんだよ」
「どうして親が経営者である人に興味があるの?」
「親が経営者となると、相手はおれとはまるで違う世界観に生きる人間だからね。聞ける話は面白いものだろうと勝手に想像してるだけさ」
「ほう。違う世界に生きるとは言わないんだね」
「世界はここだけだ。別の世界に生きる者などいない」
おやおや、と宮原は笑った。
「なんだか廉くんの言葉は一音一音、一文字一文字に意味があるようで面白いね」
「言葉は複雑だからね。本当に伝えたい内容に少しでも近いものに変換したい」
宮原は苦笑し、「僕には廉くんがなんでこんな学校にいるのかが不思議に思えてならないよ」と言った。
「そんなに頭のいい人なら、もっとレベルの高い学校に行きそうなものなのに」
「おれは頭がいいと言われたことは一度もない。変わったやつ、変なやつ、不思議なやつだとは幾度となく言われたけどな」
廉くんって面白いねと宮原は笑い、小さくなった惣菜パンを口に入れた。