入野という二文字の漢字の下に五文字の英字が並ぶ表札を抱えるその家はやたら大きく、いわゆる豪邸というものだった。

どんな生活をしていたらこれほど多くの部屋が必要になるのだと考えてしまうほどだ。


「入野っ、入野」

叫ぶ声は確かに愛猫のもので、自分が少し愛らしく思えた。

しかし同時に、また神に触れたいと複雑な思いも芽生えた。

それを振り払うように入野の名を叫ぶ。

「入野っ、入野あかねっ」

これほどの豪邸にもなると、猫の声など聞こえやしないのだろうかと思った。

これで届かなければしばらく待とうという考えのもと、大きく息を吸ったとき、遠くに小さく見える重たげな扉が開いたように見えた。

その隙間から出てきた小さな人間は、足音とともに姿を大きくしながら駆け寄ってきた。

相手の名前なら、走ってきた道のようにわかった。

「入野あかねっ」