手と頬に幾筋もの線を描く涙を拭い、何気なく顔を上げた。

太陽は外に出た頃よりも高くなっていた。


入野を思った数秒後、心臓がピアスを外した瞬間のように痛みを伴いながら震えた。

頭はなぜだといやに冷静に思考を巡らせる。

疑問の答えは出なかったが、愛猫の姿になった直後、体は戸惑う脳や愛猫の姿に慣れない心臓を連れることなく走り出した。

確かにこんなときに母親が出てきたらまずいと考えたが、冷静な脳は体に操られるように思考を変えた。

今までならばまだ愛猫の姿に慣れないはずの心臓も、今回ばかりは時間を掛けずに対応した。


入野のもとへ行きたいと思った。

思考が行動と一致すると、意図せずとも走りは速まった。

走っている道は知らない。

しかしなにゆえか、どこをどう進むべきかはわかった。