おれはダイニングチェアに腰掛け、気を逸らそうとテレビを点けた。

しかしすぐに罪悪感に襲われて消した。

ダイニングテーブルに肘を載せて手を組み、それに額を当てた。

入野の幸を願う。

父親との将来に関する話し合いが穏やかに済み、彼女が現状と将来から解放され、自由に生きられますように――。


「頭でも痛いの? 鎮痛剤、あと二回分あるけど」

不意に母親が言った。

「いや、大丈夫」

「考えごとかなにか? 珍しいね。たまには頭を使うのも悪くない」

「そう思うなら静かにしていてくれ。普段はなんらかの命令を下すときしか話し掛けないだろう」

母親は「はいはい」と頷いたあと、数秒空けて「嫌な言い方するね」と口をとがらせた。

おれは言葉を返さず、入野の幸を願った。

これは試行などではない。

母親の収入が倍になるだの、そばを歩く二人がぶつかるだのといった、実現しなかった場合に誰一人として困らないようなものではない。

人一人の人生が懸かっているのだ。

しかもその人は、おれとこの非現実的な現象を信じてくれている。

いかなることがあろうとも、彼女の幸は実現させなくてはならない。