階段を駆け上がって自室に入ると、薄暗いそこに荒い呼吸が幾度も消えた。

枕元に置いてある携帯電話を手に取り、メールと着信履歴を確認する。

未読のメールも不在着信もあらず、おれはふうと息をついた。

よかったと思ったが、そうじゃないと思い直す。

おれに連絡をよこす余裕もない精神状態にあるのかもしれないと思った。

「元気?」と三文字を並べた下に紫藤 廉と添え、送信する。

三十秒も経たないうちに返信が届いた。

「元気よ」という三文字の下、入野あかねとあった。

深い息とともに、口から「よかった」とこぼれた。

微かな声を文字にしようと返信フォームを開いた直後、携帯電話は入野からの受信を知らせて震えた。

「なんか、お父さんがまためんどくさくなってきたけど」という文字に苦笑する絵文字が続いている。

「そうか。でも、入野は近日中に解放される。保証するよ」と返信する。

直後、「心強いわ」と返ってきた。

「当然だ。おれは神なんだ」と返信する。

なんとなく、「神」の文字は「じん」で変換した。


時計の秒針の音が響く中、おれは左耳のピアスに触れた。

己の中にも眠るはずの黒猫の名を呼ぶ。