見慣れたベンチ以外、そこにはなにもなかった。

それに座る入野は泣いていた。

おれが近づくと、彼女は「馬鹿」と呟いた。

「助けてくれるって言ったじゃない……。わたし、紫藤がいたから……ここまで……」


なのに、という呟きの続きを聞く前に目が覚めた。

おれは直前までの緊張をはあと長く吐き出した。

よかった、と思った。夢でよかった。

過去にあれほど無責任なことを言っておきながら助けられなかったなどということになれば、入野への謝罪の形など思いつかない。

人一人の人生を狂わせたという感覚とともに残りの時間を生きるというのも、反対に死ぬというのも甘んじて受け入れるが、

そんな簡単なことで入野の時間が戻るのであればここ世に償いという言葉はない。