「で、小五で友人と再会したおれは、その友人とともに囲碁のゲームをして過ごした。
さすがに、長い孤独の日々をそのゲームで埋めたおれに彼が勝つことはなかったけど。
毎度毎度、真剣に今回はおれが勝つと宣言する彼の姿が面白くて好きだった」
「嫌なやつね」
「まあな。
そして、小六の頃にその友達の家の近くにある神社で黒猫を拾い、その黒猫を神と呼んで家族になってもらった。中二の頃に神を腕の中で看取り、以来おれは自分が神であるという感覚を抱いた。
で、高校に上がってから宮原と出逢い、彼も囲碁が好きであることを知り、やつのことも負かし続けた」
「やっぱり、続けるってすごいのね」
入野は苦笑した。
そうだなと同じように返す。
「今となってはあの孤独の期間に感謝だ。最高の特技を得た」
「将来はプロ棋士?」
「いいや、そんな難しいことは望まない」
「神ちゃんの力を借りればいいじゃない」
「だから、おれは人様の幸せが絡んでいなければこの現象は利用しないんだ」
「出た、お人好し。本気で言ってるの? なんてもったいない」
「おれ一人は幸せになるが多くの人が不幸せになるのとその反対なら、絶対その方がいい」
「別に、紫藤の幸せが多くの人を不幸せにするとは限らないじゃない。ていうか、むしろそんなことないでしょう」
「わからないだろう。うわ、あいつずるして幸せになりやがった、くそが、とか思われるかもしれないだろう。
それなら、他人の幸せのためにずるをして、それで相手が得た幸せを一分くらい分けてもらえた方がまだ気分がいい」
「ふうん……。おれは神だとか言って、どれだけ調子に乗った男なのかしらと思ったときもあったけど、実際は少しも調子になんて乗ってないのね」
「調子には乗ってるよ。神に抗えるのはおれくらいだと考えている」
「でも、そんな紫藤が他の神様に抗ってわたしを助けてくれるんでしょう? それなら、少しくらい調子に乗っていても構わない」
「そうか」とおれは笑った。
「おれの過去はこんなものだ。聞いて後悔したろう」
「全然。紫藤がいい人なんだって再確認した」
おれは上がる口角を抑えようと唇を噛み、入野から目を逸らした。
「照れるからやめろ」と返した声は素直だった。