「周りの者の雰囲気が変わったのは、小学校三年生くらいの頃からだった。

それほどの年齢になってくると、皆いろいろなところから情報を集めるようになる」

入野から微かに緊張のようなものが感じられた。

「当時のおれは過去の己の言動を悔いた。周りに中国を嫌う者が多かったからだ。しかし時すでに遅し。周りの対応はどんどん変わっていった」

「さすが子供――と、この年齢で他人のこととして聞くと思ってしまうけど……。経験したらこんなふうにも思えないわね」

「いや、そんなこともない。おれも今ではそう思ってる。いかにも幼子同士のごちゃごちゃだなと」

入野は小さく笑った。おれも同じように続いた。

「で、そうこうあって、気づいた頃には友達と呼べる友達はいなかった。後半はおれも求めなくなっていたが、五年生になった頃に幼稚園の頃からの友人と同じクラスになり、再会した。

五年近く空白があったが、互いに当時流行っていた囲碁のゲームソフトを持っており、はまっていたことがいい働きをし、妙な空気に包まれることもなかった」

「へえ、紫藤って囲碁が得意なんだ。確か囲碁って中国が発祥だっけ?」

「その辺はおれもよくわからない。実際は違うみたいな説もあるらしいし」

そうなんだ、と入野は苦笑した。

「それで、そうこうというのは?」

聞きたいかと返すと、少しでも紫藤を知りたいと返ってきた。

「まあ、くだらないものだ。ただただ、周りの同級生が中国に対する悪い印象を、思い思いに吐き出す場所になった。

静かに避けられたり、素直に近づくなと言われたり。もっと直接的なものもあったけど。それらは、小学生の間でありがちなものだ」

そう、と入野は静かに相槌を打った。