「平々凡々な男であると思って生きたおれが、自分が周りとは少しばかり違う人間であるということに気づいたのは、小学校に上がってからだった。

当時のおれは、日本以外の国など知らなかったが母親が別の国で生まれ育った人であることは知っていた。だから、その不思議な感覚が好きだった。自分が少し特別であると思っていた」

当時からその気質は持っていたのねと入野は苦笑した。

根本的な性格は変わらないと言うだろうと同じように返す。

「だから、おれは同級生と家族の話になったとき、母親が日本以外の国の人であることを自慢した」

「自慢しちゃったんだ」

「そう。なんかかっこよくねえかみたいなこと思ってたからな」

「紫藤ってなんか、基本的に自ら不運に向かっていくよね」

「自分が親と会社の道具だと思い込んでは疑わずに生きてきたお前には言われたくない」

入野はなにか言いたげだったが、「続けて」と返してきた。