「紫藤……おい、紫藤」
五時間目の授業中、ノートの隅に繰り返し「神」と書いていると、隣の席から男子生徒が声を掛けてきた。
「……なんだ」
「紫藤お前さ、やっぱり宮原の言ってたように、普通の人間にはできねえようなこととかしてみろよ」
「馬鹿野郎、人間にできないことなんて多すぎる。なにをしろと」
「例えば……ほら、離れた席のやつの消しゴムを落とすとかさ」
「はあ?」
「なんか、念じたりすれば落ちるんじゃね?」
「はあ……。まじでやれと?」
「おう。そうだな、じゃあ廊下側の席にいる誰かの消しゴム落としてみろよ」
「はあ?」
「ほら、念じろって。おれは神だ、落ちろ落ちろって」
おれは少し考えた後、廊下側の一番前の席の女子生徒の消しゴムが落ちることを念じた。
これで妙な思い込みから解放されるのであればいいと思った。
念じて数秒も経たぬ間に、ものが床へ落下する音が聞こえた。
念を送った女子生徒がなにかを拾い、その手でノートをこすった。
「今念じたのか?」
男子生徒が言った。
「まあ、そうだけど……。偶然だろう、たぶん」
「じゃあおれの消しゴム落としてみろよ」
「なんで毎度消しゴムなんだよ」
「別にボールペンでもいいけど」
男子生徒は言いながら、ボールペンをノートの前に置いた。
これを落としてみろとでも言うように、男子生徒はおれを見た。