「紫藤はさ、小さい頃、どんな子供だったの?」
入野は言った。特別に深い意味は感じられなかったが、それが他人も同じであることを望む。
入野のとなりに着いて向かっている先は、何度か二人で話した公園だ。
「おれの小さい頃、か……。今とさして変わらないよ」
「へえ。コンプレックスとかなかったの?」
おれは小さく苦笑した。
「それが聞きたかったのか?」
「まあね。紫藤は、同じく中国人のお母様を持つ宮原くんと仲がいい。それには、なにか理由があるように思えてならなくてね」
「ほう。入野ほどになってくると、他人の一つの交友関係からそこまで想像するのか」
「褒め言葉に聞こえないような気もしないでもないけど、褒め言葉として受け取っておくわ」
好きなように受け取ってくれとおれは笑い返した。
公園に着くと、入野はいつものベンチに鞄を置いた。
中から財布を取り出す。
まともに見たのは初めてだが、その財布は特別に高級感を放っているわけではなかった。
「わたしは飲み物買ってくるけど、紫藤、トイレは?」
「馬鹿、いつまで引きずるんだ」
「だってあの冗談、本気で引いたんだもん」
笑いながら言う入野へ、「鈍感なおれにもよく伝わったよ」と同じように返す。