「猫さん。猫さん、起きて」
入野の声に目を覚まし、おれは顔を上げた。
「一時間目終わったわよ。よかったわね、静かな先生で」
ふっと表情をやわらげる入野に、体温が上がるような感覚に襲われる。
「どう、授業一つ分も眠ればすっきりした?」
「ああ……まあ」
「本当に今日は元気ないわね。体調悪いなら保健室でも行ったら?」
「いや……大丈夫。入野がいなければ」
言った直後、入野の目に怒りのような光が窺えた。
「はあ? わたしのせいで体調が優れないとでも言うわけ? さすがのわたしだって毒ガスなんか発してないわよ?」
「いや、わかってるわかってる。だけど……」
「だけどなによ」
「いや……。感じるものに嘘をつくのは、難しいなと思って」
「わたしがそばにいるとなにを感じるのよ」
おれが名を呼ぶと、入野はなによ改まっちゃってと眉を寄せた。
「その……親父さんとはどうだ?」
「ああ、そのこと。別に普通よ? もうそろそろ面白くなってくるはず。どうして?」
「いや、別に。面白くなったあとに教えるよ」
「へえ。じゃあ、わたしが言いたいこともそのときに言おうかな。そのためにも、ちゃんと助けてよね」
「ああ、もちろんだ」
今のおれに入野のような者を放っておくことができるわけがない。