机に鞄を置くと、入野はどうしたのと声を上げた。
「えっ……な、なにが?」
「なんか……挙動不審。心ここにあらずみたいな感じでもあるし、熱でもあるんじゃないの?」
上目遣いに見つめてくる入野から目を逸らした。
「……別に、大丈夫だ。おれは夜行性だから」
「まあ……そうね、猫でもあるんだものね」
入野はふふっと笑った。
朝から疲れるなと思いながら鞄の中身を机の中へ押し込み、空になった鞄を手に席を離れた。
席へ戻ると、おれは机に伏せた。
もうなにも見たくなかった。
好奇心のようなものに駆られてちらりと入野を見ると、彼女は笑っていた。
おれはすぐに頭の向きを直した。
入野あかねという人間はこれほどかわいいものだったかと考える。
同時に、自分の単純さに笑いが込み上げた。
昨日、入野への感情がわかったとき、すっきりした直後、落ち着きを忘れた。
入野への感情が恋愛的なものであるということには納得がいった。
確かに、その他の感情では正しく表せないものだった。
しかし、その自覚が少しもなかったおれは、同時に混乱した。
入野に恋愛感情を抱いているということに驚いたのだ。