翌朝、入野はすでに自席にいた。

おれは無意識にため息をいた。

教室の扉に額を当てる。

「やっぱり知らなくてよかった……」

今までずっと馬鹿呼ばわりしていただろうと思い直すが、昨日に知った感情がそれを振り払う。

「今日帰ろうかな……」

「ばーか」

聞き慣れた声のあと、背中を軽く叩かれた。宮原だ。

「なにしてるのさ。登校直後に帰りたいと思うなんて、なんできたの。最初から休めばよかったじゃないか」

「だってこんなことになる予定じゃなかったんだもん」

「知らないよ。なにがあったんだい? すぐに済む話なら聞かないこともないよ」

まじかと返し、おれは重たい体を起こした。

宮原はすぐ隣にいた。

「……あのな、おれ……」

「なに。万引きでもしたのかい?」

「犯罪とは遠い場所に生きると決めている」

それはよかったよと宮原は笑う。

「おれ……」

やっぱりいいやと続けると、宮原はため息をついた。

「僕にさえ話せないようなくだらないことなのかい? ならば悩む価値もないことだよ」

さあ行こう、と宮原はおれの腕を引いた。