「猫ちゃんの平均睡眠時間は知ってる?」
授業が終わると、入野はすぐに言ってきた。
「当然だ――。おれを誰だと思っている」
入野は小さく笑った。
「それもそうね。で、何時間?」
「個体差はあるが、十四時間程度だ。……猫のことを知ってどうするんだ」
「別に? 猫ちゃんのことを知れば、紫藤のこともわかるかなと思ったのよ」
「別におれのことを知ってもいいことはないぞ」
「そんなことないわよ。女の子はね、特別な存在の人のことを考えているだけで、その人のことを少し知ることができただけで、すっごく楽しく、嬉しくなれる生き物なの」
「特別な存在ねえ……」
「なによ」
入野は怒ったように言った。
「別に。異性の気持ちというのはわからないものだなあと」
入野ははあと息をついた。
「わたしもわからないわ。どうしてこれほど伝わらないものか……」
「まあ、おれは馬鹿で――」
言葉を遮るように頭を叩かれた。
宮原だった。
「なんだよ」
ごめんごめん、と彼は苦笑する。
「手が当たっちゃって」
「別に構わない。手を当てちゃって、の間違いだろうがな」
では失礼、と宮原は歩みを再開した。
「宮原くんっていい人よね」
「前は思考がおれに似ていることを理由に嫌っていたがな」
「過去は過去、今は今よ。紫藤よりずっと賢いし、ちょうどわたしが殴りたくなったタイミングでなにかしてくれる」
「いい人というかそれ、代行人みたいな感じだろ」
「いいじゃない。紫藤だって、わたしにばかり叩かれるよりいいでしょう?」
「なんら変わらねえよ」