「なあ、入野」

「……なに?」

「おれさ、やっとわかったよ」

入野は一度足元を見たあと、こちらを向き直した。

「わかったって、なにを?」

「お前の、言いたいこと。おれがわかるまでアピールし続けるみたいなこと言ってたろう」

「あっ……ああ、言ったわね……。わかったの?」

「ああ、わかったよ。昨日の夜、ずっと考えた。別に、もうずっとわかんなくてもいいかなとも思ったんだけど、やっぱりもやもやするしとか思って考えた。そうしたら、なんとか答えが出せた」

「……ふうん。馬鹿で鈍感でも、本気を出せばわかるのね?」

「まあな。鈍感馬鹿魂を舐めちゃいけないよ」

「で、その答えはなんでしょう。当たってなかったら背中と頭を拳が二つずつ襲うわ」

「ほう、最悪だな。まあいいだろう。睡眠時間を削って出したこの答えには自信がある」

「へえ。どんな答えを出したのかしら?」

おれは階段を上りきったところで足を止めた。

入野はその前にまわる。

「入野――。お前は、おれを尊敬しているんだ」

入野はぴくりと目を見開いた。

しばらくの静寂のあと、「馬鹿」と声を上げ、今まで以上の力でおれの脛を蹴った。

「ほんっとうに馬鹿。おたんこなす」

「ええ……違うのか?」

「全然違う。三パーセントくらいしか合ってない。もちろん百パーセント中ね」

「三パーセントは合ってんだ……」

「その楽観的な思考はやめなさい」

さらに馬鹿と繰り返し、入野は足音を立てて階段を上っていった。

「……まじで違うのか」

今日の授業時間は睡眠に当てる他ないなと思った。

痛む左足をかばいながら階段を上る。