昇降口で、おれは後ろから入野の頭に手を載せた。
こちらを確認しようと頭を動かす彼女へ「振り返らないで」と返す。少し高い声で言った。
「誰でしょうか」とそのまま続ける。
「……宮原くん」
「なんでだよ」
食い気味に返し、入野の頭から手を下ろす。
彼女はすぐにこちらを向いた。
「なんだ、紫藤か」
「なんだ貴様、本気で宮原だと思ったのか?」
「まさか。そんなわけないでしょう、舐めてるの?」
「朝っぱらからご機嫌斜めか?」
「別に? 普段どおりよ。反対に紫藤はずいぶんと楽しそうだけど」
「おやおや、わかるか?」
「紫藤がわたしに触ってくるなんて、よほどいいことがあったときくらいでしょう?」
「別にそんなことないよ。お前がおれに触ってきすぎてんだよ。まあ触るというより殴るか蹴ってんだけど」
「失礼しちゃうわね。まるでわたしが暴力的な人間みたいじゃないの」
「暴力的な人間である以外になにがあるんだ」
ふっと笑い、教室へ向かう彼女の隣に着く。