入野は、おれを気になる人だと言った。
痛いことや寒いことを言う、変わった危険人物で、わかりやすいようでわからない。
その感覚を理由に、彼女にはおれが気になる存在であるらしい。
それはおれの解釈では、変わった同級生が実際にはどんな人なのかというところに関心を抱いているといったところだ。
それに特別な意味や思いが込められているとは思えない。
しかし宮原はそれから入野の本音を察した。
「……あいつにできておれにできないとはな」
苦笑したあと、おのっさんの笑顔が頭をよぎった。
あいつもか、と腹の中で苦笑し、枕に顔をうずめる。
慌てる己の頭に落ち着けと言い聞かせる。
宮原やおのっさんのことを考えて慌てれば、考えがまとまらなくなった。
「落ち着け紫藤 廉。周りがどうであろうとおれはおれだ。自分を乱されるな」
枕から顔を上げ、深く呼吸する。
入野にとって、おれは気になる存在である。
それはおれにとっての入野に似ているようにも思う。
彼女の本音はわかりやすいときが少ない。
おれが普段と比べてよくわかる瞬間は、彼女が父親とのことで泣いているときくらいだ。
他は、突然殴ってきたり何気ない会話を持ち掛けてくるくらいだ。
その突然の拳にも何気ない会話にも、おれには深い意味は見出だせない。