夜、おれは布団に寝転んで暗闇を眺めた。
およそ十六年半の人生でほとんど同性の友人としか過ごさなかったおれにとって、異性というものは初めて見る動物のようなものだ。
姿に驚いて関心を抱き、同時に内面にも関心を抱くが、なかなか情報が集まらず、その動物がどういったものなのか理解するのに長い時間を要する。
入野の考えていることがわからない。
彼女の思いもそうだ。
おれの前で好きな人について話す――。
宮原は、今までの言動があった上でこのようなことがあっても入野の思いがわからないのは異常だとでも言いたげだった。
これほど考えてもわからないのならば異常でも構わないとも思える。
「入野は、おれにもてたい……」
ぼそりと言葉を並べた声は、微かに暗闇を揺らしておれの頭に残った。
おれにもてたいという言葉の意味がわからない。
もてるというのは、多くの異性に好意を寄せられるという意味だと認識している。
おれの言葉の認識が間違っているのだろうか。
「……でも」
今までこの認識で会話の相手と齟齬が生じたことはなかった。
少なくとも、今まで『もてる』という言葉が使われた場面では、一人の人間が多くの異性に好意を寄せられていた。