「人を好きになる、この気持ちを表す言葉は?」
「それが『好き』だろ?」
宮原は苦笑した。もうと声を伸ばし、貧乏ゆすりをする。
「確かに好きは好きなんだけど、彼は彼女に丸々している。二つの丸に入る言葉は?」
「なんだ、そのくそ難しい問題は」
「なんで難しいんだ。なんら難しくないだろう」
「おれには難しい。感じ方は人それぞれだ。仮にその問題を簡単だと感じる人が多いとしても、多数派が正しいとは限らない」
「確かにそうだけど、これは多くの人がわかるはずだし、わかる多数派が正しいと見てまず間違いないと思うよ」
「へえ……。まあ大丈夫だ、常識なんて一つくらい抜けていてもばれないものだ」
「ただばれたらどん引かれるよ」
「人を驚かせるのは楽しいじゃないか」
おれは半分ほど減った惣菜パンをかじった。
宮原は目元を覆う。
「もう僕、廉くんがわからないよ」
「入野にも言われた」
「廉くんをわかる人はたぶん少ないね」
「謎というものは人を魅力的に見せる」
「気をつけて、廉くんの謎はその限りじゃないよ」
「そうなのか。残念だ」
そう思うなら頑張ってよと笑う彼へ、頑張って解決できるものならばとうに解決していると返す。
残ったパンを口へ入れ、ペットボトルを開栓した。