三時間目の休み時間、入野に後ろから頭を叩かれた。
「貴様の手は鉄板なのか」
「紫藤はどんな女の子が好きなの?」
入野は言いながら隣の席に着いた。
おれは人様の問いに答えろよと呟く。
「女の子への興味は人並みにはあるんでしょう?」
「まあ……な。どんな女子が好き――か。かわいい子」
「かわいい子、か……。それは、今朝言ってたわたしのかわいさとは違うの?」
「よくわからない」
入野は小さく唸った。
「じゃあ、紫藤の好きなかわいい子のかわいさってなに? どうかわいい子が好きなの?」
「どういうかわいさ……。そうだなあ、ちょっと天然、みたいな感じかな。どこか抜けてて、馬鹿みたいに素直な子。あと怒らない子がいい」
入野はふっと苦笑した。
「つまり、わたしとはまるで反対な女の子ってところね?」
「理想は。まあ理想と実際に好きになる人は違うものらしいからな」
「そうは言うけど……あまりに違うわよね」
「別によくないか? 入野だって、別におれに好かれたいわけじゃないだろう?」
入野はぴくりと目を見開いた。
微かに頬を赤らめる。
「だから言ってるでしょう……。わたしは、紫藤にもてたいの」
「その言葉の意味もわかんねえんだよなあ。もてるって多くの異性に好意を寄せられることだろ? おれはそんなにいっぱいいない」
入野は太ももに置いた手を握った。
「馬鹿……。馬鹿、あほ。おたんこなす、ひょうろく玉」
「そんなに馬鹿かね、おれ……」
「馬鹿。大愚、おたんこなす」
「ひどい言われようだな」
苦笑して視線を逃した先、宮原と目が合った。