おれが鞄をしまって席へ戻ると、先に片付けを済ませた入野が「あのさ」と声を掛けてきた。

「紫藤にとってわたしは、どんな存在?」

「……どんな存在、というと?」

「ただの友達? ただなんとなく助けてみたくなった人? 同級生、同じ学校の女子生徒――いろいろ考えられるものはあるけど」

「なるほど……」

おれは小さく唸った。

「そうだな……。かわいい人」

入野はぴくりと肩を震わせ、ゆっくりとこちらを向いた。

「かわいい?」

「そう。かわいい人」

どんな人よ、と入野は苦笑する。

「そのままだよ。ただただ、なんか、かわいい人」

「へえ」

「反対に、入野にとっておれはどんな存在なんだ?」

「そうねえ……」

なんだろう、と言う入野を、「ちょっと待って」と止める。

「神様、味方、友達、同級生、変人、危険人物――おれもいろいろと考えられる返答はあるけど」

「そうねえ……。気になる人、かな」

「気になる?」

「そう。なんか痛いこととか寒いこと言う味方で、変で危険な同級生。わかりやすいようでわからない、気になる人」

「ふうん」

で、と入野は呟いた。

「『で』?」

「で……その……。なんか殴りたくなる人」

なんで殴りたくなるかなとおれは苦笑した。

入野はだってと言い訳がましく呟き、楽しそうに笑った。