「いやあ、ぜひそのイリノってやつ見てみたいな」

「やめておいた方がいい。おのっさんみたいな人じゃ、慣れるまではぼろくそに言われる」

「……ぼろくそ?」

おのっさんは控えめに言った。

ああ、とおれは頷く。

「おのっさんはおれと似てる部分がある。おれは前、入野に

『本当に頭が空っぽなのね、あなたには考えることがないのかしら、というかあなたに脳という臓器は存在するのかしら』

みたいなことを毎日のように言われた。実際に会ったら、おのっさんもそれに近いことを言われるはずだ」

まじか、とおのっさんは苦笑した。

「イリノ、おっかねえな」

「ああ、おっかないよ。素直になってくると男受けのよさそうな部分も多いんだがな。人見知りかなにかなんだろう。

ただ、おれは入野と仲よくなってから結構経つが未だに彼女の言動は理解できない」

「それは廉くんがくそみたいに鈍感だからだよ」

水を飲んで咳払いを繰り返していた宮原が言った。

「なんであの入野さんの言動が意味することがわからないんだい」

「……へえ」

なるほどな、とおのっさんは怪しく口角を上げた。

「……えっ、なに?」

「レンって鈍感なんだな?」

「ああ、宮原に言わせればそうらしい。入野にも言われた」

「ほう、なるほどな」

じゃあおらはおとなしくしておくよ、とおのっさんは笑った。

「レンとイリノの関係は大方想像できた。おらがちょっかい出すべきようなもんじゃねえな」

「……なんでおのっさんがこんな一瞬でわかるんだ。おれ、全然わかんないんだけど」

「確かにレン、鈍感だな」

はははとおのっさんは楽しそうに笑う。

宮原が「鈍感なんてものじゃないよ」と彼に返す。