「顔がそこそこよくて性格もいいやつを好きになったんだろう? ところで、当時そいつに告白はしたのか?」

「わたしの理想が高いというよりも……その人が完璧だったのよ。他にも好意を寄せている人を何人か知ってたわ。告白はしてない。勇気が出なかったの」

「はあ、もったいないことしたな。そんなやつ、他にいないだろうに」

「そうね。そんな素敵な人、他にはいないでしょうね」

「なんで告白しなかったかなあ。今超後悔だべ」

「……別に。まだ可能性あるし」

「ああ……。まあ、確かにそうかもな。相手もこの辺りに住んでるなら、結構再会の機会はあるからな」

「……そうね」

少しの沈黙のあと、入野は「鞄」と呟いた。

「ロッカー入れてくれば?」

「ああ、そうだな。にしても、その入野の初恋の相手は、今も顔と性格のよさを保ってたら、今頃女子を選び放題だろうな。まあでも馬鹿みたいに優しいらしいから、そんなことはしないのかね」

「しないと思うわ。それに彼、女の子に興味なさそうだもん」

「女にまるで興味のない男なんているのかな。当時は冷めていそうでも、今となっちゃ興味しかないだろう、年齢的にも」

「……紫藤は女の子に興味あるの?」

「まあ、人並みには。出逢いというかきっかけというか――がないからまあ、察してほしいところだが」

「へえ。興味があるなら、もっと女の子からのアピールにアンテナ張ってみたらどうよ?」

「まあ、おれは『馬鹿で鈍感な神様』だから」

おれは苦笑した。

入野はため息に似た息をつく。

「もっと敏感になりなさいよ。この鈍感野郎め」

「鈍感ってのも、馬鹿と同じで簡単に治るもんじゃねえんだよ、きっと」

治るのならとっくに治してるさと続け、おれは鞄を持って席を立った。