「どうしてそんなことを?」
「別に。特に意味は」
「……そう。でもわたし、馬鹿で鈍感な男、嫌いじゃないわよ。あまりに鈍感だといらいらするけど、そんなところも嫌いじゃない。
次はどんな形でアピールしてやろうかと考えるのがちょっとだけ楽しかったりしてね」
「ふうん。もういっそ、直球で伝えてみたらどうだ?」
入野は小さく笑った。
「それができたら苦労しないんだけどね。でも、そのうちにそうしようかしら」
「ああ、そうするといいよ。馬鹿で鈍感な男は遠回しな表現では気づかない」
言ったあと、背中を殴られた。
うっ、と声が漏れる。
「そんな女女した腕のどこにこれほどの力があるんだよ」
「別に。殴りたくなればこれくらいは出るわよ。誰だって」
「急に殴りたくなるから殴られる方は大変なんだよな」
「しょうがないじゃない」
入野はうつむき、「馬鹿で鈍感な男なんだから」と呟いた。
「おれのことだってわかったんだ」と苦笑すると、「わたしは賢くて敏感な女だから」と返ってきた。