「あと約二年か」

入野は呟いた。

「ここを卒業したら、紫藤に会うこともなくなるんでしょうね」

「さあ、それはどうだろうな。おれ、少し前に米を買わされたとき、中学までの幼なじみに再会したぞ」

「本当? 違う高校に行ったの?」

「ああ。ちょっと差が大きくて」

「へえ。相手の子は頭いいのね」

「せっかくだから、そういうことで」

入野はなにかを悟ったように苦笑した。

「それにしても、卒業って何度経験しても楽しみにはならないね」

「確かに、中学の卒業は小学校の卒業とは違うものを感じたな」

「みんなばらばらだからね。特に高校の卒業なんかじゃもっとでしょう? 進む道が中学からよりも多いんだもん。就職、大学、専門学校……」

「仮に大学に進学するとしても、それだけでもいろいろと種類があるからな。国立、県立、私立。さらに、美術大学だったり音楽大学だったり、短期大学と」

「同じ場所へ進む人はまずいないでしょうね」

入野ははあと息をついた。

いやいやとおれは苦笑する。

「まだ二年弱もあるんだぞ。なにを落胆してやがるよ」

「だって、来年はクラス違うかもしれないじゃん。紫藤と」

「……お前、いつの間にかおれのことすげえ信頼してくれてるな。嬉しいけど」

「信頼っていうかさ……」

入野はしばらく黙り込んだあと、自席からおれの脛を蹴った。

「お前器用かよ。なんでそんな蹴りづらい場所からで力強さ健在なんだよ」

うるさい馬鹿と声を上げると、彼女は机に突っ伏した。