「ところで、入野はどうやって写真家になるんだ?」

「そうね……。方法はいろいろとあるみたいだけど、わたしは学校かしら」

「学校――というと、大学の美術系の学部か?」

入野は頷いた。

「あとは大学だと、美術大学。専門学校という方法もある」

「へえ。意外とまともな言葉が返ってきて安心した。独学だとか言い出すのかとも考えてたから」

「独学も視野になかったわけではないわよ。会社を継ぐ場合には、僅かな自由時間を使って少しずつ学んでいこうだなんて浅はかな考えも抱いていた」

「ほう……本気だな」

当然よ、と低い声が返ってきた。

「写真は……わたしにとって、唯一自分というものを保てるものだったから」

入野は呟くように続けた。

「……でもお前、自我も選択肢もあってはならないものだくらいに言ってたろう」

「まあそうだけど。そこは本人だったり同じ状況の人にしかわからないような複雑なものがあるのよ」

「本人にしかわからない、なあ……」

「馬鹿にしてるでしょ。別に構わないけど」

「馬鹿にはしてないよ。むしろ、よくわかる。悩みなんて、他人に理解を求める方が間違ってるくらいなんだ」

入野は驚いたようにおれを見たあと、「そうね」とどこか悲しげな笑みを浮かべた。