「そうだ、紫藤は高校卒業したらどうするの? 大学? お母様が中国の方らしいし、英語以外の語学を中国語にしちゃえば楽じゃない」
そんなことできるのかなとおれは苦笑した。
「将来なあ……。考えられないというか考えたくないというか。まあ、職を探すおれを必要としてくれる場所があるならそこで力を尽くすまでだな。人助けで金が入れば最高なんだが」
「じゃあ、少し前に興味を持っていたなんでも屋さんでも開業すればいいじゃないの」
「馬鹿野郎、簡単に言うんじゃない。おれは凡人だ」
「だから、そういうときに与えられたその力を使うのよ。紫藤がなんでも屋さんを開業したら、後に救われる人が多く出る。
これなら、紫藤がその力を使うポリシーみたいなのにも触れないでしょう?」
「そうだけど……」
なにが不満なのよと入野は低い声を出した。
「こんな確かなものに金を取るというのも心が痛む……」
入野は大げさにため息をついた。
「あんたはどこまで優しいのよ。そんなんではこの世の中生きていけないわよ?」
「だってそうだろう、おれが念じればどんなことでも現実になる。こんな、労力を使うわけでもないようなことで金を取るんだぞ、近いうちに罰されてもおかしくない程度のことじゃねえか」
「でも相手は願いを叶えてくれることを望んでいるのよ? 神社にお参りするのと同じようなことじゃないの」
「違う。貴様がそう思っても、おれの中ではまるで違う。百八十度違う」
「じゃあもう半回転させなさいよ」
「嫌だね」
「なによ」
人様がせっかく考えてあげたのにと入野は口をとがらせた。